当院の取り組み

【整形外科】後縦靱帯骨化症とは

2020/11/20

1.後縦靱帯骨化症とは

首に位置する「後縦靱帯」が骨になる病気

後縦靱帯骨化症とは、背骨の中を縦に通っている後縦靱帯と呼ばれる靱帯が骨になる(骨化する)病気で、指定難病に該当します。背骨の動きが悪くなるため、体が硬いと感じたり背中に痛みを感じたりすることがあります。また、骨化することによって脳からつながる中枢神経系である脊髄の通り道である脊柱管が狭くなると、脊髄や神経根などの神経が圧迫され、手足のしびれや感覚障害、運動麻痺などの症状が出現することがあります。
骨化する脊椎の部位によって病名が異なり、特に、首に位置する後縦靱帯に骨化が生じたものを頚椎後縦靱帯骨化症と呼びます。ほかに、胸椎後縦靱帯骨化症、腰椎後縦靱帯骨化症があります。

頚椎後縦靱帯骨化症の患者さんの男女比・年齢

頚椎後縦靱帯骨化症は、50歳前後の中年層で発症することが多いといわれています。ただし、30〜40歳代の若年層や、60歳以上のご高齢の方に発見されるケースもあります。特に、症状が現れない場合には、病気の発症に気づかないまま経過し、何らかの画像検査をきっかけに発見されることが多いため、発症から年数が経ってから発覚することもめずらしくありません。
頚椎後縦靱帯骨化症の男女比についてお話しすると、2対1の割合で男性に多いことがわかっています。

複数の要因が関連しあって発症すると考えられている

現在のところ頚椎後縦靱帯骨化症の原因は特定されていません。椎間板脱出や遺伝的素因、カルシウム・ビタミンDの代謝異常、肥満などさまざまな説がありますが、現状では複数の要因が関連しあって発症すると考えられています。

2.後縦靱帯骨化症の症状

後縦靱帯骨化症になると、骨と骨をつなぐ靱帯が骨に置き換わり癒合してしまうため本来動く骨の間の動きがなくなってしまい、頚の可動性が低下します。上を見たり、下を見たり振り返ったりなどの動作がしにくくなりますが、加齢によっても頚椎の動きは減少するので年のせいと思っていたりと、特に病気を疑わないことが多いようです。
骨化した部分がある程度の大きさになると神経が圧迫され、首の痛み、手足のしびれや感覚障害が起こります。さらに、病気の進行とともに痛みやしびれの範囲が広がると、手や足が思うように動かなくなる運動障害が起こることがあります。
重症化すると、手が使えなくなり、歩行が困難になり、排尿や排便障害が起こり、生活に支障をきたすこともありえます。また、転倒などで外力が加わることにより神経障害が加速したり、四肢麻痺になったりするケースもあるため日常生活には十分な注意が必要です。

3.後縦靱帯骨化症の診断

頚椎後縦靱帯骨化症の診断には、基本的にレントゲン検査を行います。また、必要に応じてCT検査やMRI検査を行うこともあります。
たとえば、ある程度骨化が大きくなっていて、手足のしびれなどの神経症状が現れている場合や、骨化した部分にある程度厚みがあるような場合には、神経の圧迫の程度を確認するため、MRI検査を行います。
頚椎後縦靱帯骨化症の中には、レントゲン検査の結果のみでは病変を曖昧にしか確認出来ないために、骨化しているかどうか判断に迷うことがあります。このようなケースでは、CT検査を行って初めて骨化していることが明らかになることもあります。なお、重症化しているタイプでは、手術の前に骨化の形態を確認するためにCT検査を行います。
また、手足のしびれなど症状が現れているかどうかに関わらず、知覚障害の有無、筋力の程度なども確認していきます。
頚椎後縦靱帯骨化症の診断を行った患者さんに対して、これからの経過をしっかりと説明するようにしています。それは、経過についてご説明しないことで、後縦靱帯骨化症という病名から重症化するイメージをもたれ、患者さんの不安につながってしまうことがあるからです。
頚椎後縦靱帯骨化症と一言でいっても、必ずしも重症化し積極的な治療を必要とするケースばかりではありません。実際に、症状が現れないまま経過すれば治療を必要としないケースも多いです。
どちらの経過をたどる可能性が高いのか、現状の見解についてご説明させていただき、患者さんの不安を取り除くことが出来るよう努めています。

4.後縦靱帯骨化症の治療

保存治療

後縦靱帯骨化症は、軽症で進行しないようであれば経過観察を行います。
軽症のまま経過するタイプで病気の進行が認められないようであれば、基本的に経過観察を行います。症状がわずかに現れているような方に対しては、必要があれば生活上の注意点をお伝えすることもあります。たとえば、わずかに手足のしびれがあっても日常生活を送る上では困っていないというようなケースでは、治療ではなく、日常生活を送りやすくするための指導をしながらの経過観察を行います。骨化によって圧迫を受けている神経を保護するために外固定装具を装着する治療もよく行われています。
なお、経過観察を行っていく中で、病気の進行が認められ症状の悪化が見られるようであれば、手術など積極的な治療を行うこともあります。
首に痛みが現れていれば痛みを抑える鎮痛剤を用いて、症状を和らげます。また、手足のしびれなどが現れていれば、これらの神経症状を抑える薬を用いて治療を行います。

手術治療

後方法

後方法とは、骨化した部分はそのままにして、神経が通っている脊柱管を広げる手術方法です。後方法による手術には、脊柱管を広げることで神経の圧迫を改善する効果が期待出来ます。後方法は、基本的に、骨化の範囲が狭く、骨化した部分の厚みがそれほどない場合に行われます。

前方法

前方法による手術には、神経の圧迫を改善するために骨化した部分を完全に摘出しプレートで固定をする前方除圧固定術や、骨化した部分を薄く切り取り浮き上がらせ前方へ移動させる骨化浮上術があります。
前方法は骨化している部分が大きく、厚みがあるような症例に対して行われます。
後方法によって脊柱管を広げるだけでは十分な改善が期待出来ず、神経への圧迫が残ってしまうような症例に対して行われることが多いといえます。

※前方法のリスク
前方法は後方法と比べて手術時間が長く、食道や甲状腺動脈などの主要臓器や声帯の神経を損傷するリスクがあります。また、手術による合併症も多いことがわかっています。手術による合併症には、一時的ですが食べ物や飲み物をうまく飲み込むことが出来なくなる嚥下障害(えんげしょうがい)や、呼吸がうまく出来なくなる呼吸障害などが挙げられます。
頚椎後縦靱帯骨化症の術後は、基本的に翌日から身体を起こしてベッドに座ってもらうようにしています。そして術後、状態がある程度落ち着いたタイミングで、歩行やストレッチなどのリハビリテーションを開始します。前方法による手術を行った患者さんであると、術後4〜5日程度でリハビリテーションを始めるケースが多いでしょう。

正確で安全な手術が出来るよう体制を整えている

当院では、頚椎後縦靱帯骨化症に対して後方法、前方法、どちらの手術も行っています。お話ししたように、特に前方法には、術後、嚥下障害や呼吸障害などの合併症が起こるリスクが高いといわれています。当院では、なるべくこれらの合併症を起こさないよう手術技術の向上に努めています。
また、ナビゲーションシステムを導入することで、より正確で安全な手術を行うことが出来るよう体制を整えています。具体的には、ナビゲーションシステムを用いてCT撮影を行い、骨化している部分や神経の圧迫の程度を常に確認しながら手術を行っています。

看護師やリハビリテーションスタッフによる早期の対応

また、術後の合併症を早期でに発見するためには、看護師やリハビリテーションスタッフ、薬剤師などの医師以外のスタッフの対応も大切であると考えています。当院では、看護師やリハビリテーションスタッフなど医師以外のスタッフが、患者さんの呼吸状態などを確認し、何かあれば医師へ伝えるような体制が築かれています。

5.その他、後縦靱帯骨化症の治療実績

頚椎後縦靱帯骨化症の手術症例数は年間30から35人程度です。他院から紹介された重症例が多いため前方手術の頻度が高く、症例の5割に対して前方骨化浮上術を行っています。

前方骨化浮上術

C5でのCT横断像

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