当院の取り組み

【耳鼻咽喉科】 補聴器ノススメ

2021/12/02

  補聴器のススメ

人間は年を取ると共に様々な機能が衰えて参ります。私自身60歳を超えてから、今まで歩くスピードは他の誰よりも早いと自負していたのに、通勤時若い女性に追い越されることがたまに起こるようになりました。目の悪いのは職業病(常に暗い穴を見つめているため)と思っていますが、耳は遠くなって来ていて、TVの音は以前より数値が大きくなっています。
耳が遠くなっても人との会話に支障が出なければ良いのですが、なかなか赤の他人に「あなたは耳が遠いですね。」などとは言えないし、言ってもらえないものです。

私の母親(今年94歳)は、10年以上前から難聴があり徐々に悪化していたため、見かねた私が3年前に補聴器を購入したのですが、「私は耳が遠いと人に言われたことはない。」と言い素直に使用してくれません。そのこともあって短期記憶(少し前の出来事の記憶)が衰えて来て、朝方に夕食の希望を聞かれ答えた15分後に同じ質問をしてくる始末です。
実は、難聴と認知症の関係が非常に深いことはWHOが数年前に発表して以来、様々な研究で明らかになって来ております。難聴を放置したため認知症になりやすくなる、認知症の方が難聴だと早く悪化する、などです。
やはり人間は他の人と関係を持って生きることが必要で、難聴のためにコミュニケーションが十分に取れないと、刺激が足りなくなり脳の機能が低下してしまうのでしょう。
先ほどお話したように、人は年を取れば自然に聴力が衰えます。それを若い頃の聴力に戻す治療はありません。

ですからもし聴力が低下し始めたら、出来るだけ早く補聴器を使い始めていただきたいのです。私の母親のように息子たちに難聴を指摘されてもそのこと自体を拒絶し続けると記憶力が衰え、認知症が進行してしまうかも知れません。

 

さて、人間の脳には非常に大きな音を不愉快に感じる「防御機能」があります。もしこの機能がなければ内耳が破壊さてしまいます。
聴力が正常な状態と高齢化で聴力が低下した場合の「防御機能」は聴力の低下と共に変化するか、と言えば実は変わらないのです。
年とともに聴力がかなり低下してから初めて耳鼻科を受診し補聴器を使用してみるとどうなるでしょうか?

補聴器とは聞こえる音の最も小さな音から少し音圧を上げて聞かせる器械なので、先ほど申し上げた「防御機能」が働きますので補聴器から聞こえる音は極めて不愉快だと感じることでしょう。そのような器械を使っていただけないのは明らかです。

 

私が補聴器相談医の資格を取るため出席した講習会で最初に教えられたのは、「日本人の補聴器使用者における満足度は20-30%しかない(欧米では80-90%)」という衝撃の事実でした。
何故日本では補聴器に対する満足度が低いのか?それは、従来難聴がかなり進行してから補聴器を使用するよう勧めていたため、先ほどお話した「不愉快な強大音」が聞こえるだけで全く意味がなかったからなのです。
補聴器をお勧めすると、よくご家族や知人が補聴器を使っていたが、「うるさくて使えない。」と使用を止めてしまった、と言うことをおっしゃる方がいますが、その最大の理由が「遅すぎた使用」にあります。そのため現在では出来るだけ早めに補聴器を使用するようお勧めしております。
補聴器イコール年寄りがするものというイメージがあります。しかし年寄りと見られたくないという理由で補聴器をしないでいると次第に周囲の方々とのコミュニケーションが取れなくなってしまいます。

 

今後日本において、若い頃から聞こえを補うため聴力が低下したらすぐに補聴器をするのが当たり前、恥ずかしいことなど何もないという社会を作ろうと我々耳鼻咽喉科医は動き始めております(以前勤めていた病院の上司=耳鼻咽喉科部長は、患者さんに補聴器を勧める決めセリフとして「クリントンも補聴器をしているのであなたも補聴器をして下さい。」と言っていました。当時の大統領であったクリントンが(50歳代の若さで)補聴器をしているとは誰も気がついていなかったでしょう)。
つまり30歳でも40歳でも、もし必要があれば恥ずかしがっていないで補聴器をして、立派な社会の一員として暮らしていただきたいのです。年を取ったようで恥ずかしい、みっともないとお感じになるのは「昭和の感覚」です。
それよりも人生最後の瞬間まで皆ときちんとコミュニケーションが取れるように努力しましょう。我々耳鼻咽喉科医はそのお手伝いをする用意があります。
あなたは他の人に耳が遠いといわれたことがありますか?
ご自分で人の話が聞き取りづらいなあと思ったことはありますか?
周囲の方々に是非一度「耳が遠くて会話に支障が生じていないか。」と尋ねて見て下さい。
答えが「YES」であればすぐに耳鼻科を受診することをお勧めいたします。

         

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